うろうろ都市考察録 #3 暗さと温かさを両立する方法 -京都にて-


横並びで自転車に乗ってかえる夜(2026.05.15)

1. 歌いながら自転車に乗りたくなる夜

久しぶりに京都で過ごす日。ちょうど蛍が飛びはじめた初夏の夜に、驚いたことがありました。たった一晩で、歌いながらのんびり自転車に乗って帰る人に、二度もすれ違ったのです。

夜の時間。大通りから一本入った、たくさんの細い路地。店舗や民家からふんわりと路上に漏れている光。車が少なくて自転車や歩行者が過ごしやすく、声が聞こえやすい環境。お店を出る客を見送る店主の声や、家の奥から漏れ聞こえる話し声。自転車で歌いながら帰っていく後ろ姿。あかりはあって、人の営みも感じられる。でも久しぶりにコンビニに入る時に、眩しすぎて目を細めてしまうくらいには、まちには暗さが漂っている。

他の人の活動を感じることによる安心感はありながら、同時に暗さが担保されていることで、のびのび過ごしやすいような気がします。この感覚がどこから来るのかを考えてみることにしました。

建物から漏れ出る光に照らされる通り(2026.05.15)

2. 明るさ↔︎暗さと温かさ↔︎冷たさ

暗さがあるのに、温かさを感じるという感覚を理解するために、光についての「明るさ↔暗さ」と、親密さについての「温かさ↔冷たさ」という2軸を立てて整理してみます。親密さを表現する際の温かさとは、直接的な色温度等というよりも、光や音などによって「人の活動を外部空間から知覚できること」を指すことにします。

A.明るくて温かい:光があり、人の活動が知覚しやすい
人がたくさん集まっている、マーケットや夜市のようなイメージ。光量が高く、その光そのものである人の活動が直接溢れ出している。祝祭感。

B.明るくて冷たい:光があるが、人の活動は知覚しづらい
コンビニ、自動販売機、駐車場、均質化した商業施設のようなイメージ。広告・演出・防犯といった意図のための光が満ちていて、光量は高いけれど人間の活動は外部空間に届きづらい。管理的。

C.暗くて冷たい:光が少なく、人の活動を知覚しづらい
本当に人がいない状態に加えて、人がいたとしてもその存在や活動が外部空間には届かない状態。例えば、防音断熱に優れた新しいマンションが連なり、商業業態も存在しない住宅地の夜は、人は上層部の家にいたとしても、その光や音を通じた営みの存在は外部空間には届きづらい。不在感。

D.暗くて温かい:光が少ないが、人の活動は知覚しやすい
光量は低いのに、人の活動の痕跡が外部空間に届いている状態。光・音、それから熱・匂い・時間の変化などが重なることで、視覚的には暗くても、いまここで人が活動していることが知覚されやすい。滲出的。

夜遅くまで人が出入りする、ほんわり光がともる銭湯(2026.05.15)

冒頭の景色はまさにこのDです。外に向けた過度な光はなく暗さが担保されているものの、建物内部からの光や音を通じた活動が外に滲み出し、それらが幅員の狭い街路に充満することで、温かさ・親密さを形成しているようです。

3. 「暗くて温かい」→「暗さ」が守られた歴史的なプロセス
今はほんのり暗いこのエリアを含む京都一体も、高度成長期を経て広告が増加した時期には、他地域と同様に明るくなったといいます。
転換点とされるのは2007年。京都市が「新景観政策」を施行して、屋上広告・点滅照明・高彩度の看板色を市内全域で禁止。日本の大都市で全市的に景観規制を強化した初めての試みで、完全施行まで7年間の経過措置期間を要したそうです。
最近では、2022年策定の京都市「京都のあかり——京都らしい夜間景観づくりのための指針」が公開されました。「やわらかな暖かいあかり」「暗がりも大切に」といった情緒的なキーワードを設定した、行政主体の文書です。景観条例が広告を中心とした過度に明るい外向きの光を制限する規制であったのに対し、この指針は暗さとともに、内側から漏れる光の価値を言語化する試みとして読めます。
これまでに、条例で外向きの光を制限し、新たな指針で内側から漏れる光の価値を言語化するという二段階によって、暗さが積極的に守られてきたと言えます。しかし、ここには書かれていないのが、条例制定以前から存在した要素ではないでしょうか。

4. 「暗くて温かい」→ 暗い中で「温かさ」を担保する構造
条例以前から、温かさの側を構造的に支えているものは何でしょうか。特に重要なのが、町家という建築形式・幅員の狭い街区スケール・土地所有の流動性の低さといった条件の上で育まれてきた、関係性に依拠する(口コミ・常連等で成立する)中小規模業態の占める割合の高さがあるのではないかと思います。
コンビニやチェーン店、観光客を主とする業態は通りがかりの人を今すぐ引き込む重要性が高く、外向きの強い光を必要とするのに対して、常連客の割合が高い業態は客の側がどこにあるかを知っているので、光を外に発しすぎる動機が弱いでしょう。まさに先ほどの写真の銭湯もその一つ。結果として、商業を含めた人の活動がすぐそばで存在するにもかかわらず、過度な外向きの光を必要とする主体が少ないという状態が重要なのではないでしょうか。
さらに、それ以前の街区構造の特徴も大いにあります。細い路地だから充満している、人の声や柔らかな光を通じた活動の存在感は、スケールが大きくなれば一気に薄まり、暗くて冷たい状態に近づくでしょう。
京都のあかり指針が言う内から漏れる光や、ついつい歌いたくなるぐらいの雰囲気をどう紡いでいくか、それから他のまちでも同様の環境を醸成しうるかを考える際には、夜間照明に関する要素だけではなく、街区や業態の傾向を含めた一連のトピックとして捉えた方が良いのかもしれません。
そんな問いを持ち帰った、久しぶりの京都滞在でした。

5. 参考文献
「京都のあかり——京都らしい夜間景観づくりのための指針」
https://www.city.kyoto.lg.jp/tokei/page/0000296747.html

PROFILE
内山 美紀(うちやま みき)
株式会社スマイルズ プロジェクトマネージャー/リサーチャー

2022年入社。大学での専門は公衆衛生と生物統計学。スマイルズでは、企業のCI/BIや新規事業の戦略立案、飲食店やホテルの企画開発、海外でのイベント開催等、幅広い分野のプロジェクトマネージャーとして経験を積んだのち、近年は広域のまちづくり・都市開発のプロジェクトを中心に担当している。地域の米と食文化にフォーカスした企画「米惣動」は現在お休み中。旅先での荷物の小ささに定評がある。

※内容、表現、肩書、各種名称は、公開当時のものをそのまま掲載しています。