「やったことがないから、やってみる」
2019年の新年。野崎さんが発した一言でした。
その言葉に背中を押され、海苔弁事業部からクリエイティブ本部へ異動したのは、今からちょうど5年前のことです。飲食の現場たたき上げだった私にとって、クリエイティブはまったくの未経験でした。
スマイルズには「N=1」という、出発点は「個」であるという考え方がありますが、私にも、そんな個人的なN=1がありました。
10年前、ワーキングホリデーでパリに滞在したときの縁や経験を、いつか仕事につなげられたらという想いです。機会があればアイデアを出し、個人旅行でヒアリングやリサーチを行い、社内メンバーと海外展開について話すこともありました。
そんな私のもとに、昨年の2月、フランスでの縁から一通のメールが届きました。仕事の依頼や相談ではありませんでしたが、そのとき「フランスで、やるなら今年だ」と直感しました。
目的も意味づけも、自分たちで決めなければならない。
スマイルズが、なぜフランスへ行くのか。何をしに行くのか。
4月、後輩の内山さんと定例MTG開始。企画アイデアを出しては堂々巡りする日々。
5月、評価面談で上司に相談。「フライトチケットを取ってみては?」とアドバイスをもらう。
6月、「今年の9月にパリへ行く」と社内に宣言。見通しが立っていなくても、行動しながら進めていくしかないと決める。
7月、ユネスコ本部で日本の食文化を紹介する企画が動き始める。野崎さんから「大丈夫、できるから」という言葉をもらう。
そうして、スマイルズとしての正式参加が決まりました。
食を通して、まだ知られていない日本文化の奥行きを伝えたい。
私はお茶とお酒と和菓子をご紹介すると決め、これまでの暮らしや仕事で出会ってきた、尊敬する作り手の方々にお声がけしました。
丁寧な手仕事と素材へのこだわりを貫き、美味しい和菓子を届け続ている上野うさぎやさん。
伝統に現代の感性を掛け合わせ、たくさんの新しい煎餅の魅力を教えてくれる松崎煎餅さん。
地域の特産品・ういろうの伝統を大切にしながらも時代に合わせた挑戦をし続けている青柳総本家さん。
その土地の風土を映すお茶を、生産から加工・販売まで行うtea factory gen さん。
江戸時代から長年培ってきた技術を活かし、原料や製法にこだわりぬいている亀甲萬本店。
並々ならぬ想いと覚悟でものづくりをされている一人ひとりです。
前例もなく、不確定要素も多い取り組みでした。
それでも参加の意思を示してくださったとき、嬉しさと同時に、身が引き締まりました。
個人の「やりたい」だけでは済まされない。自分の気持ちだけは、途切れさせてはいけない。 そう強く思いました。
せっかくの機会を最大限に生かすために、社内メンバーを公募し、フランスにいる知人にも力を借り、必死に走り続けました。
展示内容を詰め、VMDのモックアップをつくり、冊子を制作し、海外バイヤー向けの営業資料を三カ国語で作成しました。展示に使うお皿やグラスをお借りし、クロスがわりの和紙を選び、伏見人形を丁寧に梱包して輸送しました。
どれも、自分ひとりでは到底できなかったことばかりです。
スマイルズは、9月12日、ユネスコ本部で日本の食文化を紹介する機会を得ました。
和菓子やお茶、お酒を口にし、驚きの表情を浮かべる現地の方々。
作り手の方が、直に自分の言葉で想いを伝える姿。
その光景を見たとき、10年間の縁と経験が重なり、はじめてこの景色に辿り着けたのだと感じました。
そこには、出展ブランドの皆さん、現地にご一緒した作り手の方々、一緒に走り続けた仲間と、支えてくれた多くの人の、それぞれのN=1がありました。
絶対にひとりでは見ることができなかった景色に、心から感謝しています。
振り返れば「やったことのないことを、やってみた」その積み重ねが、確かに今につながっている。
初めてのことばかりで、反省も山ほどあります。
それでも、またやってみる。
未来は、いまの発意と行動から生まれると思っています。
コネクティブディレクター
大久保 奈智子