10年前の夏、僕の結婚式にて、祖父の形見であった家紋付きの羽織袴を着用しました。それはちょうど70年前に、祖父自身が自分の結婚式のために誂えたもの。おばあちゃんにどうしてもその姿を見せたくて、僕はその羽織袴に袖を通して式に臨んだわけです。
式自体は滞りなく終えたのですが、控え室に戻り、さあ今から着替えるかと思うやいなや、袴の糸が切れてパラパラと花が舞い散るかのようにはだけてしまったんです(当然僕はパンツ一丁です)。
もしこれが式中だったらと思うと冷や汗ものでしたが、同時にこの羽織袴が自ら「お役目御免!」とさよならを告げているようでもあり、70年前の祖父と繋がったような感覚でした。100年までは難しかったけれど、僕と祖父を繋いでくれた羽織袴に感謝です。
他の人にとってはとるに足りないモノも、誰かにとっては大切な一張羅。作り手の思いや継ぎ手の思い、それを受け継ぐ人の想いが重なって替えの利かないモノとなっていくのだと思います。
今日ここにも、たくさんの作り手や継ぎ手が集まっています。
今日の僕とモノとの小躍りしたくなるような出会いは、その方々の思いを受け止め繋いでいく100年の最初の一日目かもしれません。
PASS THE BATON MARKET Vol.8 タブロイドより。
※内容、表現、肩書、各種名称は、公開当時のものをそのまま掲載しています。