今から十数年前、私は和歌山でフランス料理の名店でシェフ・ド・パティシエをしておりました。和歌山は海のもの、山のものがおいしく、レストランで修行をするには絶好の場所でした。ただ東京や大阪と比べると高級レストランを楽しむご家族や、接待で使ってくださる企業は少なく、21時には掃除も終わり、家に帰る日々でした。
せっかく時間があるならお酒と会話の勉強をしようと、和歌山随一のbarでアルバイトを始めました。はじめからお酒を作らせてもらえるわけではなく、グラスを洗ったりお客様とお話ししたりがメインの仕事です。
そんな日々で、常連のお客様の中にお店の近くでラウンジを経営されているママと知り合いました。その後、スマイルズで働きだして数年がたったコロナ禍のこと。そのママから突然の連絡があり、「コロナで夜の街に人が来なくなった。スタッフを守るためと、和歌山の夜の街をもう一度街を盛り上げたいから力を貸してほしい」と。
4年間お世話になった和歌山に恩返しできるチャンスだと思い、すぐに上司に相談しました。
初めての打ち合わせでブランドのコンセプトとスコーンのレシピを授けたところから始まったのが餡子とバターのスコーンサンド「an and an(アン アンド アン)」です。
アンアンドアンは店舗を持たずにPOPUP出店で運営を行っていき、時にはPASS THE BATON MARKETでの出店や百貨店の催事に出店。いろいろな場所で、いろいろな方々に「おいしい」の言葉をいただきブランドが育っていきました。
そんな皆様の応援のおかげもあり、グランスタ東京からお声をいただき、記念する1店舗目が2024年9月にオープン。和歌山の小さなラウンジから東京駅地下へ出店とまさにサクセスストーリーを歩んでいるように思えるかもしれませんが、ここまでの道のりはとても苦難の道だったと思います。
アンアンドアンは、夜には華やかなドレスを着ている女性たちが作業着を着て、スナックの一角で、手作業で作るところからはじまりました。慣れない手つきで、一生懸命生地を練る姿を今も覚えています。今では工房もかまえ、ラウンジの卒業生たちも働いてくれる場所になりました。ママをはじめ、関わる一人ひとりの、そんな愛があふれたお菓子を是非食べていただきたいです。
プロジェクトマネージャー 兼 フードデザイナー
葛川敬
2025.02.04 スマイルズの社外報 モギかけの果実 より。