自信のインナーマッスル ー内輪ノリの必要性


近くて・早くて・何でもできる。一番近いモノヅクリの町
2017年より現在に至るまで、江東区のものづくり企業をPR・ブランディングする事業を手掛けています。区内の優れた製品・技術により革新的に事業展開の道を切り開いている企業を「江東ブランド」として認定し、さまざまなPR活動を通じて、広く認知してもらうとともに、企業と江東区がともにイメージアップを図ることを目的とした事業です。

「ものづくり団地」というコンセプトのもとに、近くて・早くて・何でもできるモノヅクリの町として江東区をブランディング。「伝統」「革新」といった他の地域でも見て取れる規範的な方向性で全体を統一するのではなく、「江東区の特徴や違い」「一社一社の企業の魅力」を顕在化させることで関わる企業さんたちを盛り上げています。具体的な施策としては、大型展示会への出展、WEBサイト制作、冊子制作、勉強会や交流会などをプロデュースおよび実行しています。

今日はこの江東ブランド事業の経験で学んだチームビルディングの話を、事業のはじまりのエピソードとともに書いてみようと思います。

一人の悔しさが、プロジェクトを変えた
10年前、江東区の担当者さん(当時)が現在の委託事業者である弊社を訪れました。「3年間取り組んできたブランド事業を見直したい」という話をするためです。まだ立ち上がったばかりの事業でコンセプトや目指す方向性は曖昧。区内の企業を認定することそのものに主眼が置かれ、選ばれた後に誰にどんなPRをしていくのか、探り探りの状況でした。

正直、打ち合わせ中のスマイルズの反応は芳しくなく、お断りの雰囲気に満ちています。しかし、担当者さんは何を言われても引き下がらない。首を縦に振ってもらえるまで帰らない覚悟を感じました。決意の理由は、出たいと考えていた展示会から「今の企画やデザイン性では出展させられません」とNOを突き付けられたことがとても悔しくて、そんな評価のままでは事業を続けられない、何とかして改善したいという背景があったそうです。

そこから事業の立て直しやリブランディングを手掛けられる会社を探して、数社と商談をしたけど、なかなかいい返事はもらえない。暗中模索の日々、藁にも縋るキモチでたどり着いたのがスマイルズだったそうです。その方の悔しさから生まれた熱意が私のココロを動かしました。この行動がなければ、江東ブランド事業は間違いなく全くの別物になっていたことでしょう。

反発からのスタート。何かを変えるためには、何もしないことも大事
とはいえ3年間継続していた事業です。すでに出来上がっていたコミュニティと価値観。その時、認定を受けていた江東ブランドの認定企業さんたち(20数社)からは「スマイルズが江東区に何をしにきたんですか?」と、ノット・ウェルカムムードは誰の目にも明らかでした。認定企業さんたちは、上記の展示会ディレクターの評価は知りませんし、自分たちなりに力を合わせて、一所懸命に江東区のものづくりをPRすべく取り組んでいるところです。

さらに当時のスマイルズは地域のブランディング実績も少なかったですし、クリエイティブ主導で自分たちが積み上げてきたことや志していることをぐちゃぐちゃにされてしまう不安があったようです。(後日談より判明)そのため受託後の2か月間はひたすら認定企業さんの工場を回り、私たちのことを伝え、企業さんたちの声に耳を傾けることに専念しました。功を焦って、いきなり改革を断行していたら、おそらくプロジェクトは空中分解していたと想像できます。当初猛反発をしていた古株認定企業の社長さんは、今では一番の応援団長となって一緒にプロジェクトを推進してくれています。

内輪の自信の重要性
江東区のものづくりの魅力を発信するプロジェクトなので、当初は区外に出るべきだと思っていました。区外で行われる展示会やイベント、セミナーなどにチャレンジしていく。その活動によって得られる成果もありました。ただ何か物足りない、なぜか乗り切らない。悶々とした期間が少なからずありました。

ある時、認定企業勉強会と称して、ブランディングの話や他地域のものづくり企業の事例、認定企業さんの近況活動報告を実施したところ、新しい知識にみなさんの目が輝いている。さらに製品や技術は違えど同じものづくり企業の工夫や努力を目の当たりにすることで、自分ももっと出来る、もっとやろうと沢山の刺激を受けていました。区内のイベントでは取引先はもちろん、知人や家族などに江東ブランドの活動を見てもらうことで肯定感が高まっていく。PR事業だからといって、外に向えばいい訳じゃない。内輪の活動で、仲間から刺激を受けることや自信を蓄えることが、区外へ飛び出すエネルギーになるのです。

身体に例えると、アウターマッスルはカラダの見栄えを良くしたり、瞬発力を発揮するためには役に立ちます。打ち上げ花火的に注目を集めることや興味を惹くデザインでプロジェクトの見え方を変えることも有効です。一方で、基礎代謝向上や体幹の安定化にはインナーマッスルが必要です。組織やチームにおいても、関わる企業やメンバーの内輪の自信を鍛えることで事業やプロジェクトの継続力や自立力を培うことができる。一般的には避けるべき内輪ノリがチームを強くする、そんなことを私たち自身も学ばせてもらいました。

苦肉策が得策に。まとまりがない=多様性と可能性
江東ブランドには、鉄・木・ガラス・革・繊維・ゴム・封筒・マグネット・ブレーキ・ろうそく・造船など本当に多種多様なものづくり企業が集まっています。ブランディングを請け負う立場からすると、「木工家具だけ」「刃物の町」「ガラス加工の集積」のように1つのカテゴリーにまとまっていた方が、ブランドメッセージやデザインを開発していくことは簡単でしょう。同じ区に事業所があること以外、バラバラであった江東ブランドをどうやって語っていくかは、プロジェクト初期の大事なポイントでした。

まとまりがないというのはポジティブに捉えれば、つまり「何でもOK。何でも出来る」ってこと。ものづくりのために新潟県の燕三条や北海道の旭川に足を運ぶことは有意義だけど、物理的に遠く、時間もお金もかかります。でも(都内の企業から見た時に)江東区は近い、だから早くものづくりが出来る。そんな思考を経て「近くて、早くて、何でもできる。一番近いモノヅクリの町」というコンセプトが生まれました。今となれば、このコンセプトであったゆえに、今では蚕から宇宙まで幅の広い企業が集まるプロジェクトになれたと思います。

ものづくりはヒト由来
最後に、当たり前ですが、ものづくりはヒトがするものです。地理的なアドバンテージや歴史による与信なども地域ブランドの特徴になりますが、江東ブランドの一番の強みはヒトだと思います。好奇心が旺盛で、新しいことに前向きなヒト。過去の経験や既存のリソースに縛られることなく、「まぁ、やってみようか!」と一歩踏み出せるヒト。現状を変えるべく、覚悟をもって行動するヒト。ヒトに惹きつけられて、この町でものづくりをしたいヒトが増えていく。

行動や変化をしていくためには、自信が必要です。その自信は、最初は内輪ノリから形成されるものであってもいい。お互いを面白がって、認め合って、刺激をし合うことで、事業もヒトも変わっていきます。プロジェクトも変わっていきます。引き続き一社一社、一人一人の個性を大切に、伴走をしていきます。今後の江東ブランドの展開を楽しみにしてください。

PROFILE
吉田 剛成(よしだ たけなり)
株式会社スマイルズ 取締役/CHRO

2008年スマイルズ入社。Soup Stock Tokyoでの店長業務、人事部採用担当を経て、2013年から2015年にかけては、スマイルズの交換留職で経済産業省クリエイティブ産業課へ出向。中小企業の海外展開事業や海外向け情報発信の立ち上げに参画。現在は外部案件のコンサルティング、企画・プロデュース、ワークショップなどを担当。取締役として組織づくりや事業企画にも関わる。時折ダジャレや韻をベースとしたコピーライティングも手掛ける。大きな声では言えないが姑息さを兼ね備えたプロジェクトマネジメント術にも定評がある。週末は息子のサッカークラブサポーターが趣味。

※内容、表現、肩書、各種名称は、公開当時のものをそのまま掲載しています。
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