奥と言ってみれば


「パスポートのいらない、外国のよう」。
あるメンバーがそう表現したのは、人口1200人ほどの北海道の町、中川町のこと。

旭川空港から北上すること、3時間強。
高速を乗り継ぎ、人家のない川沿いの路を抜けると、眼前に広がる牧草地。
今の時期は新緑が信じられないほど鮮やかで、のびのびと草を食む牛や羊の姿が見られます。
僕が初めて訪れた3月はまだまだ白銀無音の厳寒期で、
町の中央を流れる天塩川の上を散歩できるほどでした。

訪れるたびに違う顔を見せてくれるこの町は林業や酪農が盛んで、
珍しい植生や豊かで広大な土地から得られる自然の恵みが魅力。
地域おこし協力隊の皆さんの活気やイベント好きの地元の方が精力的に活動をされていて、
人の面でも惹きつけられる町です。

とあるご縁から中川町さんとのお仕事が始まったわけですが、
何よりもネックになるのが、交通。
車で直行3時間以上、鉄道は乗り換えもあるので半日仕事。
朝6時に自宅を出て、到着は午後の2時という距離感です。
以前に社長の野崎と一泊工程で伺った際には、
おじさんふたりはヘトヘトで帰路は言葉少なに(笑)。
東京からすれば、「遠路はるばる」なわけです。

そんな折、ちょうど旅行でいった奥日光を思い出す。
以前仕事で携わった奥出雲。
ドライブで行った奥飛騨。
知人の建築家さんが居を構える奥渋谷。
奥とつく場所は、なんだか、奥ゆかしくて、玄人向けな香りが漂います。
それにあやかるわけではありませんが、
北海道北部の秘境エリアを「奥道北」と呼ぶことに決めました。

デジタル化に効率化の世の中。
情報もすぐに取れてしまうし、
それなりの観光地なら車や鉄道で難なく辿り着けてしまう。
「遠路はるばる」の不便さこそ、逆に価値に変えられる。
山の上のパン屋さんだったり、注文を間違えるレストランだったり、
違いを特徴と見立てれば、そこには価値を感じてくれる人がいるものです。

そんなこんなで、スマイルズは中川町と包括締結協定を結び、
まちおこし、まちづくりに参画する運びとなりました。
奥道北から、たくさんのクワダテを興していきます。

クリエイティブ・ディレクター
林 大輔

※内容、表現、肩書、各種名称は、公開当時のものをそのまま掲載しています。