全員講師研修 ー教えるときにイチバン学ぶ


研修は人事部だけでなく、全員でやるもの
すっかり年の瀬ムード。毎年こりずに言ってしまいますが、一年あっという間ですね。もう間もなく、半年間におよぶ新卒採用活動も末を迎えそうです。2026年の春に数名、新しい仲間が増えます。楽しみ、ワクワク。これから新人社員を受け入れるにあたって、研修を企画設計していくわけですが、スマイルズの新人社員研修は2021年から『全員講師研修』を実施しています。読んで字のごとく「全員が講師になる研修」です。

一般的には、人事部などの研修担当部門が数週間から数か月にわたって、企業に新しく入社してきた社員に向けて指導・育成する研修です。「学生から社会人へのマインドチェンジ」、「基本的なビジネススキルの習得」、「自社の理解・カルチャーの浸透」、「業務に必要なスキルの習得」などが目的とされています。これはこれで大事なプログラムであり、新人社員にとっても、会社にとっても必要な学びの時間であると思いつつ、同時にいくつかの疑問がわいてきます…

・研修って、人事部任せてでいいんだっけ

・ずっと座学でインプットばかりって、しんどくないかな

・一気に情報を詰め込まれても、すぐ忘れちゃわないかな

・毎日同じメンバーで研修やっていると飽きちゃうのでは

・一般的なロジカルシンキングやビジネスマナーは書籍でも学べなくはない

・研修は、実践と交互にやった方が効果高いのでは

・そもそも勉強するのって、新人社員だけでいいんだっけ

そこで、私たちが考えたのが、既存の全社員が新人社員のために講師を務める『全員講師研修』でした。人事部には最低限のガイダンスのみ実施をお願いして、後は全員でやってみる。新人社員3~4名に向けて、約50名の既存社員が1コマ1時間(長い人は2時間やることも)各々の得意をベースにオリジナルの研修を企画設計します。既存社員は全員なので、昨年入社した新人も今後は講師側になりますし、数か月間前に入社したばかりの中途社員も、スマイルズ以前の経験や思考をベースに講師を務めます。

毎回講師もテーマも変わるので研修のフレッシュさが保たれます。また会議室で座学のものもあれば、テストキッチンで調理を目の当たりにしながら教わるものもあります。デッサンやものづくりワークショップなど自分たちで手を動かる講座も。ひたすらに情報を頭に入れ続けるのではなく、時に味覚や触覚を使い、時にはオフィスを出て実際の店舗に足を運ぶなど身体をフルに使った研修を目指しています。

50名による50種の異なるカリキュラムが誕生
もう少し詳しく、どんな研修があるのかご紹介します。社会人基礎的な「仕事を整理していく術」、「卸と営業」、「プロジェクトスキームの作り方」といったものから、デザイナーによる「知られざる日本語フォントの世界」、「デザイナー的見やすい資料の作り方」、「じゃないほうのVMD」。色々なスペシャリストが揃うからこそできる「お皿と盛り付け」、「ネクタイ作りワークショップ」、「Sketchupによる空間モデリングとその活用法」や個人の趣味が色濃く反映された「JPOPから学ぶコピーライティング入門」、「映画チラシの魅力」、「イベント出展~お菓子編~」。仕事の姿勢や思考が学べる「先付けのススメ」、「逆の視点を持つ」、「昨日まで知らなかった分野を急速に学ぶ方法」などなど幅広い講座が生まれました。

講師となる社員たちは、ただテーマについて調べ、世の中に流通する情報やノウハウを収集し、授業するわけではありません。どれもメンバーが仕事を通じて培った独自の視点やオリジナルロジックによって構築されているのが特徴です。実際のプロジェクトは教科書通りにいかないことがほとんどです。『全員講師研修』は決まりきった手法や枠組みでは解決できない様々なプロジェクトに携わる中で、メンバーが得た具体的な経験やプロジェクトを面白がる発想をベースとした講義になっています。そのため、講師の人となりも学びつつ、テーマに関する知見も増えるような研修になっています。

講義の内容を暗記するのが研修ではないので
一気に50講座も詰め込んで大丈夫なのか…と心配に思う方もいるかもしれません。『全員講師研修』において、そもそも講義内容を覚えることを新人社員に求めていません。入社後の数か月で、まず学んで欲しいのは、スマイルズが様々な事業やプロジェクトを手掛ける中で、「誰が何を知っているか」、「誰に何を聞けばいいのか」を何となく把握することです。(これは以前のコラムで書いた全員面談と全く同じねらいです)

先々実務を行っていく中で、色々な疑問や壁にぶつかっていきます。その時々で「これはデザイナーの中でも○○さんが詳しかったな」、「確か研修で○○さんが同じような話をしていたぞ」と各人の頭の中で相談相手を検索ができれば十分です。それを繰り返しているうちに情報や経験値がたまっていって、どこかのタイミングでは自分自身で判断したり、解決ができるようになると信じています。

教えるときに、一番学ぶ
実は、これ講師のための研修なんです。もう一度言います、講師の方が学びがあるんです。これが『全員講師研修』の本質です。きっかけと機会は新人社員に向けた研修でしたが、一番学んで欲しい、一番学びを得られるのは1時間講義をする講師の既存社員なのです。講演会などに慣れている方を除いて、一人で1時間プレゼンテーションする内容を自分で考え、自分で資料を作成し、人前でそれを実施するのは結構大変です。無論誰かが作ってくれた資料を話すだけだったら覚えればいいので簡単。しかし、自分で資料をつくるには想像以上に思考と試行が伴います。自分の過去の仕事を振り返り、それを整理し大切になりそうなキーワードを抽出する。相手に伝わるように説明の流れを考える。1時間のんべんだらりとすると盛り上がらないので、起承転結などのプレゼンの波をつくる。一度作ってみて、そこから修正の連続。本番、実際にプレゼンテーションをやってみる。スムーズにいったところ、上手くいかなかったところ、思ったより反応がいいパート、意外と反応が渋かったところなど、講義をやってみて分かることも沢山あります。結局、教わる側以上に、教える側にとって学びの総量は多い。『全員講師研修』は、50名が学ぶ機会と言えます。

個人の知見をチームの財産に
一人一人が苦心して作り上げた資料と講座は、本人は勿論のこと、会社全体にとっても有益な資産になっていきます。一度『全員講師研修』を実施すれば、50の資料が生まれます。これは新人以外のメンバーのノウハウにもなりますし、先々に残るナレッジとして活用できます。スマイルズは、誰かが考えたことや誰かの視点や資料をパクり合うことを大推奨しているので、資料の共有はチームの成長を加速させてくれます。さらに、来年再来年『全員講師研修』をやる際は、同じテーマ・同じ資料で講座は行わず、また新しい資料を作るようにしています。なので、年を追うごとに新しい資料が増えていく。これは積み重ねていくと、個人にとっても組織にとっても価値ある知の蓄積になっていくのです。

新人社員研修を、社外に公開?!
2024年度には、12名のメンバーの講座を4日間に分かれて、社外に公開してみました(笑)。通常、新人社員研修は社内向けなので社外に公開することなんてないと思いますが、学生さんや社会人1~5年目の方を対象に、何か参考にしてもらえるかも?といった軽いキモチで社内研修を社外にオープンに。企画・業態開発・PR・デザイン・コピーライティングと分野横断的な講座を有料で開催しました。

席数が少なかったこともありますが、あっという間に完売。蓋をあけてみたら、ある会社の社長さんが自社の新人社員のために買い占めていました。全く予想外でしたが、毎回同じ方たちが参加され、うちのメンバーともちょっと仲良くなっていました。確かに、小さい企業さんでは自社で様々なテーマの研修を実施することは難しいので、こういった法人ニーズがあることに私たちも気付くきっかけになりました。次回はそんなことも想定に入れながら、社外に公開するかどうか、どんなテーマたちで実施するかなど、これから企画と研修の準備をはじめていきたいと思います。

2024年度の『全員講師研修』講座一覧

誰しも人生の先輩であり、誰しも何かの先生足り得る。
先輩が後輩に伝える。上司が部下に教える。
そんなバイアスを取っ払ってみると
お互いにとって有益で、お互いにとって刺激的で
お互いの好奇心がかき立てられる研修が
全員が全員のために役に立つ研修が
できるはずです、みんなきっと。

PROFILE
吉田 剛成(よしだ たけなり)
株式会社スマイルズ 取締役/CHRO

2008年スマイルズ入社。Soup Stock Tokyoでの店長業務、人事部採用担当を経て、2013年から2015年にかけては、スマイルズの交換留職で経済産業省クリエイティブ産業課へ出向。中小企業の海外展開事業や海外向け情報発信の立ち上げに参画。現在は外部案件のコンサルティング、企画・プロデュース、ワークショップなどを担当。取締役として組織づくりや事業企画にも関わる。時折ダジャレや韻をベースとしたコピーライティングも手掛ける。大きな声では言えないが姑息さを兼ね備えたプロジェクトマネジメント術にも定評がある。週末は息子のサッカークラブサポーターが趣味。

※内容、表現、肩書、各種名称は、公開当時のものをそのまま掲載しています。