決裁よりも熱量 ー承認フローは全くと言っていいほど存在しない


みんな、稟議に悩んでいる
承認フロー、決裁プロセス、稟議は、組織が判断や決定をくだす際には欠かせないものでしょう。承認が上手くもらえずに悩む人も多いようで、SNSでは「社内で承認をもらう方法を知りたい」といった内容の投稿がチラホラ。会社である以上、一定の手続きは必要だと理解しつつも、気づけば自分の時間のほとんどが上司の決裁を得るためだけの仕事になっている…なんてこともあるかもしれません。本当に届けたいのは、その先のお客さんや生活者の方のはずだったのに。何事も一人ではできないので、社内の協力を得る動きに意味はあると思いつつも、気がつけば関係各所の調整に右往左往するばかりで何も実行できていない…なんてこともあります。本当はみんなでチームをつくって、事業やプロジェクトに向き合いたいはずなのに。

決裁よりも、熱量が大事
もう10年以上経ちますが、新卒の2つ上の先輩がスマイルズ社内ベンチャー第1号として、新宿にバーを立ち上げ今も経営を続けています。当時先輩は「パスザバトン」で店長を務めていましたが、「いつか独立する」という夢を叶えるために経営会議でこんなプレゼンをしました。「自分には息子が2人いる。息子たちが将来大きくなって、『チャレンジしたい』と自分に相談してきたとき、自分がチャレンジしていないとそれに答えられないから、自分はチャレンジしたいんです」と。マーケティングや事業計画といった数字はほとんど出てこず、自分の想いと熱量を泣きながら語り、役員たちも「わかったわかった、やろう」と言うしかなかったそうです。

また「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」の1号店も、当時ネクタイ事業の部長が独断でGINZA SIXの出店を取り付けてきたことからはじまります。経営会議では事後報告。「決めてきちゃったなら、やるしかないね」と、そこからみんなで知恵を絞り、業態の企画を詰め、リソースを工面し、開業に向けて準備を進めていきました。これもネクタイ事業部長の熱量が会社を動かしています(そもそも、ネクタイ事業部長が弁当事業を立ち上げることも不思議ですがw)。

他にも稟議に捉われないエピソードは沢山あり、スマイルズは承認フローや決裁プロセスに興味がないことが分かります。さすがに経理や総務系の申請や承認手続きは一部存在しますが、事業やプロジェクトにおいては、全くと言っていいほど稟議不在。何なら社長も私も決裁フローを問われても説明できません(笑)。決裁も調整も、もしかしたら無駄の源泉かもしれない。個人やチームの熱量さえ伴えば、時として事後報告でも構わない。どうしても社内のよもやまより、届けたいはずの外に向かって本質的な仕事をしよう、と思ってしまいます。

主観はアルジ
出向で大組織に勤めていた時、会議中に自分の感性で発言をしたところ「それはあなたの主観ですよね?」と否定されてしまいました(主観まみれのスマイルズの感覚からするとビックリw)。何か新しいことを始める時、綿密に調査を行うことや周到な計画を立てることが重要視されます。熱量とは対極のデータやロジックに軍配が上がりがち。確かに数字や論理は、人によって判断がブレにくく、定量的に比べることもできます。調査結果、定量的なデータ、ロジカルな分析、過去の事例、戦略に基づいたアイデア…こういったものたちで議論をしていけば、客観性は担保されるのかもしれません。でもふつふつと湧き上がる「それだったら自分じゃなくてもいいのでは?」という心の声。

お客様は神様なんて言われていた時代もあり、確かに「客人」も大事。でも「主人」「主人公」「主役」だって、大いに大事ではないでしょうか。主要な決め事を、自分の主義主張で、主体的に、主導してイイじゃないですか。だって「主(アルジ)」なんですから。自身の主観に自信を持って、相手の主観を尊重して思ったことは、どんどん発信していく。一人一人の思いつきや直感や本音たちは、きっとイイところをついています。だってそれは、イチ生活者やイチ関係者としての大事なN=1なわけですから。実際に仕事を動かしていくのは、意志や感情をもった人と人なわけで、数字やロジックだけ動ける人もいれば、そうじゃない人もいます。逆に、計画や目標がアイデアを狭めたり、関わる人の熱量を奪ってしまうケースもあると思っています。

実行思考 Development Thinking
計画や稟議、決裁よりも、実行を重んじる。実行こそが思考と機会を生み出してくれるからです。「よく考えてから、やりましょう」を疑ってみる。まずやったことを認め、賞賛する。だから、事後報告だって構わない。思考先行は、何かしら考えられるケースでは、その方が精度が上がって出戻りも少なく効果的です。ただし、仕事をしている中では考えられないケースも存在します。やったことがない初めての案件、これまでと違う目標やゴール、状況や環境の大幅な変化など。そういう時は、実行(やってみる)が思考(どうすればいいか)をつくってくれます。

「これは上手くいかない」、「思ったよりも時間やお金がかかる」、「やりたかったことは、これかもしれない」、「こうやれば上手くいきそう」、「過去のあの案件に近いかもしれないぞ」という具合にやっているうちに頭が働いて、考えられるようになってきます。なので、考えられない時こそ無理に思考せずに実行してみる。実行が思考をつくり、展開した思考が次の実行を計画してくれます。

マネジメントは決裁を仕事にしない
重厚な社内向け資料作成や色々な根回しに奔走するよりも、実はその方が手っ取り早く、効果的で、組織の中に知見も貯まります。とはいえ何かあった時の責任をとるのはマネジメントサイドなので、マネジメントサイドにちょっと勇気が必要です。事細かに管理したり、監督したりすることをマネジメントだと思わずに、思い切って任せてみる。新しいことならば、自分の過去のモノサシでアイデアを推し測らない。お金は出すけど、余計な口は出さない。少し離れたところから温かく見守って、危ない時は助けてあげる。もちろん、大きなリスクがある場合はストップをかけることもあるでしょう。でも、たまにはメンバーたちの熱量を信じてみませんか?取り返しがつく範囲の中で、やらせてみる、可能性に賭けてみる、ちょっと冒険してみる。もしかしたら、いつもと違う景色がみれるかもしれませんよ!?

決裁より、熱量を大切に
承認プロセスよりも、実行を賞賛
事前稟議ではなく、事後報告も容認
計画以上に、思いつきを重んじてみる

手続きだけで、満足しない
フローを守ることで、自分を守らない
価値づくりにこそ、価値がある
実行こそが、次なる思考をつくってくれる

PROFILE
吉田 剛成(よしだ たけなり)
株式会社スマイルズ 取締役/CHRO

2008年スマイルズ入社。Soup Stock Tokyoでの店長業務、人事部採用担当を経て、2013年から2015年にかけては、スマイルズの交換留職で経済産業省クリエイティブ産業課へ出向。中小企業の海外展開事業や海外向け情報発信の立ち上げに参画。現在は外部案件のコンサルティング、企画・プロデュース、ワークショップなどを担当。取締役として組織づくりや事業企画にも関わる。時折ダジャレや韻をベースとしたコピーライティングも手掛ける。大きな声では言えないが姑息さを兼ね備えたプロジェクトマネジメント術にも定評がある。週末は息子のサッカークラブサポーターが趣味。

※内容、表現、肩書、各種名称は、公開当時のものをそのまま掲載しています。